「広汎性発達障害」の告知

 東邦大医療センター大橋病院は、東急田園都市線の池尻大橋駅から徒歩5分ほど。自宅最寄のバス停からも路線バスでまっすぐ行けるところにあります。世田谷区の3歳児健診で紹介状を書いてもらった小児科の医師の外来へ、11月のある日、妻が悠平を連れて行きました。
 医師はいくつか悠平に質問したり、話しかけたりしましたが、やはり悠平はマイペース。医師は「障害」という言葉は使わなかったものの、単に言葉が遅れているのではなくてコミュニケーション能力が身についていない可能性が高いこと、多くの場合は先天的な要因であることを妻に説明し、念のため脳波と頭部のMRI検査(日本語では核磁気共鳴画像法と表記するようです)を受けることが決まりました。
 悠平は12月8〜10日の2泊3日、検査のため入院しました。幼児の場合は薬で眠らせてからの検査になるため、入院が必要になるようです。初日は脳波、2日目はMRIでした。MRI検査はわたしも受けた経験がありますが、土管の中に入るようなもので真っ暗、しかも不快な大きな音がウオンウオンと響きます。幼児の場合は途中で目が覚めてしまうこともあるようで、その場合は入院を延長して翌日にもう一度やります、と言われていましたが、幸いに悠平は一度でうまくいきました。
 脳波とMRI検査の結果がそろったところで、2日目の12月9日夜、妻とともに医師から説明を受けました。「広汎性発達障害」との診断でした。医師の説明はおおむね、次の通りでした。

  • 単なる言葉の遅れなら、言葉を発するための準備段階の仕草がみられる。例えば、ほしいものを指差すとか。そういう場合は放っておいてもいいが、悠平にはそうした準備行為がない。コミュニケーション能力自体に問題がある。
  • 「広汎性発達障害」は広い概念で、この中に自閉症アスペルガー症候群が含まれる。その中間に当る症状ももちろんある。個人によって障害の程度も異なる。
  • 脳波は年齢に応じた発達を示しており、異常はない。MRIの検査結果も問題ない。
  • 障害は先天的なもの。親の育て方が悪かったとか、そういうことではない。生まれつきというか、妊娠中の何かの要因だろう。脳の中で能力のバランスが崩れていると考えられる。
  • 障害があると、通常はそれを補おうとする別の能力が発達する。優れたところを伸ばしてやれば、十分に障害をカバーできる。
  • 3歳半という時期に分かったことは、よかったことの一つ。これからトレーニングを始めてうまくいけば、小学校も特殊学級ではなく普通学級に進むことも可能。もっと遅くになってから、例えば小学校への入学直前などでは、親が混乱してしまうケースもある。
  • 障害児の療育はだいたい区市町村が担当する。世田谷区は全国的にみても取り組みが進んでいる。

 世田谷区の療育施設宛てに紹介状をもらうことにして面談は終わり、悠平を病棟で寝付かせた後、妻と2人で自宅に戻りました。
 幼稚園の入園テストの様子を見て以来、こういうこともあるだろうと予測していましたし、心の準備みたいなものもある程度はできていました。「ショックはない?」と妻に聞かれましたが、思った以上に自分では冷静でした。「それなりに人生経験を重ねた年齢だからね。もう10年若かったら、もっとショックを受けていたかもしれないし、取り乱していたかもしれない」と妻に言いました。
 妻は「わたしにとっては、『ほかの子と違うんじゃないか』と気づいた1歳半から、悠平は成長が止まっているようなものだった。自分の育て方が間違っていたわけじゃない、ということが分かってすっきりした」と話しました。その言葉にハッとなりました。一緒に悠平を育てていたつもりでしたが、知らずのうちに妻を独りで苦しませていたのだな、と。本当に今まで、妻に申し訳なかったと思いました。