乳児期の兆候と親の知識〜「悠平ルール」を理解したい

 悠平が広汎性発達障害の告知を受けて以降、わたしも妻も発達障害に関する本をよく読むようになりました。いずれも新書版の入門書ですが、発達障害の子どもに共通する特有の行動やしぐさなどを知るにつれ「そう言えば赤ん坊のころから悠平もそうだった」と、思い当たることばかりです。いずれも当時、わたしは「ちょっと変わっているなあ」ぐらいにしか思っていませんでした。言葉の遅れ以外の主な行動やしぐさは次の通りです。

  • 回るものが大好き。またがって遊ぶ室内用の自動車のおもちゃは、ひっくり返して車輪を手で回して遊んでいました。100円ショップで妻が買ってきた小さなラグビーボールも、わたしがタテに立ててコマのように回してやると大喜びでした。妻とは「将来は物理学に才能を示すんじゃないか」などとのんきな(?)ことを話していました。
  • 視界の隅でものを見る。いわゆる「流し目」のような視線になります。電車や乗り物の写真を見る際に顕著でしたが、この視線のまま自分の顔を動かしていました。妻とは「止まっている電車を自分の視界の中で動かしているのかな」と話していました。
  • 親の手や指をつかむ。テレビを見たいときに顕著でした。リモコンを自分で持ってきて、わたしや妻の手をつかみ握らせようとするのです。欲しいものを指差して示すことができないため、代わりにこのような行為になるようです。
  • つま先立ちで走る。歩き出してからは、室内でも屋外でも時々、つま先立ちで走りました。部屋の真ん中で自分の体ごとクルクル回ったりもしていました。そうしたときの視線は「流し目」でした。
  • 道順にこだわる。自宅から歩いて買い物や散歩に行くのに、絶対に通りたがらない道があります。買い物の都合で無理に通ると、ベビーカーを全身でゆすって泣き喚きました。妻一人では押さえきれず、転倒の危険もありました。

 言葉の遅れはずっと気になっていましたが、悠平がほかの子どもと違っていると、わたしがはっきり気づいたのは、昨年秋の幼稚園の入園テストの時でした。妻はもっと以前から感じていたようです。
 ある小児科医は著書の中で、日本の小児科医の伝統的なスタンスとして、乳児の健診ではチェックの中心は身体の発育ぶりで、こころの面の発育は後回しの傾向があることを書いています。1歳半ぐらいから発達障害の見分けは可能になるようですが、1歳半健診では言葉が出ないことへの不安を親が口にしても、医師は「まあ個人差がありますから。3歳まで様子をみてみましょう」と話すことが多いとか。別の小児精神科医は、不安があれば健診の際に医師にでも保健師にでも、具体的に「発達障害の恐れはないのか」と尋ね、専門医の紹介を求めるよう奨めています。
 今から思えば、ですが、悠平も1歳半のときには先に挙げたような様々な発達障害に共通の行動を見せていました。わたしたち夫婦に知識があれば、もう少し早い時点で専門医に受診できたかもしれません。ただ、そうなっていれば今よりも何か状況で有利な点があったのかどうかは、今の時点では何とも言えません。

 悠平は昨年11月に幼稚園の入園テストに落ちた直後から、飛躍的に言葉を発するようになりました。ただ断片的な単語にとどまることが多く、実年齢よりも1〜2年遅れ、つまり1歳半から2歳半ぐらいのレベルです。それでも親としては嬉しいものです。
 一方で、道順へのこだわりは激しさを増してきました。行きたくない道を通ろうとすると路上に大の字になって寝転がり、足をばたつかせて泣き喚きます。スーパーの店内、駅のホーム、場所はお構いなしです。少し前までは、わたしが肩車をしてやると泣き止んでいたのですが、最近では肩車のまま体を大きく揺すって泣き叫ぶようになりました。そういう時はたぶん、悠平自身がどうしていいいのか分からないのでしょう。なるべく無理強いは避けて、できるだけ悠平の行きたいところへ、歩きたい道へ進もうと、妻とは話しています。
 悠平には自分の行動のルールがあるようです。悠平自身が自覚しているかどうかは分かりませんが、わたしたち夫婦がそのルールを理解することができれば、遠回りの人生のようでも悠平がこの先歩いていける道が見つかるのだと思います。