悠平カード

 悠平はわたしたち両親が口で言って聞かせてもなかなか言うことをききません。最近は家の中で高いところに上りたがります。つい先日も妻がちょっと目を離したすきに、キッチンの食器棚によじ登って床に落ちました。額に切り傷を作っただけですみましたが、これで懲りてくれるかどうかは分かりません。
 広汎性発達障害の子どもに共通の特徴らしいのですが、悠平はやっていいことと悪いことの区別を、耳で聞いて理解することが著しく困難なようです。怒って見せても、他人が怒っているということが理解できないのか、きゃっきゃっと笑って喜んでいることもあります。広汎性発達障害の診断を受ける前は、わたしが子どものころ、親から真っ暗な押入れに入れられ「ごめんなさい」と言うまで出してもらえなかったように、悠平を真っ暗な洗面所に閉じ込めたりしました。しかし、悠平は「ごめんなさい」と言えるはずもなく、激しく泣くだけでした。わたしに理解がなかったとは言え、かわいそうなことをしていました。
 それでも、しつけはしつけとして考えなければなりません。診断を受けた際の医師の説明では、発達障害の子どもは聴覚からの抽象的な理解が困難な分、視覚からの情報入手は鋭敏になることが多いようです。何とか、しつけにも目で見て分かる工夫ができないかと考え、妻と相談して写真を使ってみることにしました。名づけて「悠平カード」です。
 日常生活に登場するモノや風景をどんどん写真に撮って、パウチで補強してカードのようにリングで束ねます。日常の行いのひとつひとつを、わたしたちが写真を指で差し示しながら、また悠平にも指で差し示させながら説明するやりかたです。ネットで注文したパウチ機がけさ(21日)届いたので、まず手始めに悠平の好物のハンバーグ、から揚げ、カレーライスの写真(わたしが料理した際に撮っておいたものです)をパウチしました。悠平はまだ単語をぎこちなくしか話せないのですが、さっそく写真を見せてやると「カレッライス!」「からあげ!」とにこにこして声に出していました。

 妻とわたしの写真も加えました。大写しにした笑っている顔と怒っている顔の2枚ずつ。ほめるときには笑っている写真を見せながら、怒るときには怒っている写真を見せながら言って聞かせるためです。さっそく「お父さんニコニコ、お母さんもニコニコ。悠平はいい子いい子」「お父さんプリプリ、お母さんもプリプリ。悠平は悪い子」と言いながら写真を見せると、悠平は怒っている顔の写真を見ながら「だめ、だめ」と言います。「だめ!」とわたしたちが怒るときの顔だと理解できているようです。ただし、相変わらず「怒る」ということがどういうことかは理解できていないようですが。
 お昼前からは、カメラを持って3人で昼食に外出。自宅マンションの玄関や建物の外観、近くの交差点など道順の目印、ふだん買い物をするスーパーなどを片っ端から撮りました。以前のエントリーにも書きましたが、悠平は外出の際の道順に強いこだわりを持っています。意に添わない道順や場所に行こうとすると、路上で大の字に寝転がって泣き叫ぶこともあります。これらの写真を使って、外出の前などにこれから行く場所と道順を説明したり、外出中にパニックを起こしそうになった時には、写真を使ってどこに行きたいのかを確認したりと、いろいろ試してみるつもりです。
 これからは外出の際はカメラを片手に、悠平と歩く道をひとコマひとコマ撮っていくことになりそうです。

 実はこのカード方式は、1月28日に亡くなった戸部けいこさんの漫画「光とともに…自閉症児を抱えて―」に出ています。篠原涼子さん主演でテレビドラマにもなったこの漫画を今、夫婦で読み進めているところです。いずれこのブログでも感想などを書こうと思います。

光とともに… (1)

光とともに… (1)