広汎性発達障害について、わたしも妻も当初はまったく知識がありませんでした。わたしたちなりに立てた方針の一つが、広汎性発達障害、なかでも自閉症をテーマにした本をどんどん読んでみることでした。そういう中で手にした一冊に「<新版>ビッグツリー 自閉症の子、うつ病の妻を守り抜いて」(佐々木常夫 WAVE出版)があります。2006年に最初の版が出版された直後から、マスメディアでも紹介されて話題になった(わたしも妻も知らなかったのですが)のでご存知の方も多いかもしれません。
- 作者: 佐々木常夫
- 出版社/メーカー: WAVE出版
- 発売日: 2009/07/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本書でわたしが共感したのは、佐々木さんが職場で家庭事情を開示した点です。企業社会というのは業種を問わず多かれ少なかれ競争社会です。産業内での企業間競争があり、企業内では個々人の成果が問われ、それが待遇や昇格に反映します。年功序列の家族的な経営風土を残す(正社員に限定したことかもしれませんが)日本の大企業にあっても、家庭事情を職場に持ち込むことには個人の側にためらいがあり、言葉を換えれば「出世に響く」こととして、なかなか口にはできないことではないかと思います。
佐々木さんも最初はそうだったようです。きっかけは奥様の最初の自殺未遂。家庭で何か不測の事態が起きたときにでも対応ができるようにと、職場で家庭の深刻さを話さざるをえなくなりました。以後、家族のことをオープンにすることに躊躇がなくなったとして、以下のように書いています。
それは、世の中には重い荷を負っている人たちは数多くいるわけだし、もちろん、それは決して恥ずかしいことでも、負い目を感じることでもないと考えたからである。それに、私の家族のことを知った人たちが私の行動を理解したり、支援してくれたりというプラスはあっても、マイナスになることはほとんどなかったからである。
さらに言えば、私の事情を知って「実は私の娘がうつ病」「息子がダウン症」などとこっそり打ち明けてくれた人がどれほど多かったことか。多くの重荷を背負った人たちにとってつらいことのひとつは、その悩みをもっていくところがなく、悩みを共有できる人が少ないということではないだろうか。人間は他の人にわかってもらえた、あるいはそういう仲間がいると知っただけでもつらさの半分は解消されるのではないかと思う。
わたしにも同じような経験があります。
わたしの勤務先はマスメディア企業です。悠平が広汎性発達障害と診断された昨年12月当時、わたしはニュースの取材・出稿部門で所属長である部長を補佐する立場の管理職でした。その以前から、悠平の成長ぶりがほかの子どもたちとは違うことに気付いていましたし、さらにその以前から、妻はそうした悠平の子育ての大変さもあって睡眠障害となり、うつ病を発症していました。幸い、佐々木さんの奥様のように自殺未遂を起こしたり「死にたい」と口にすることはありませんが、この病気が大変なのは、ここをこうすれば何日で治る、というようなことがなく、また気分の不調だけでなく動悸や息切れ、めまいなどの激しい身体症状が続くことです。「いつまでの我慢」という終わりが見えないことが、この病気の最大のつらさなのかもしれません。
妻の病気のこと、悠平の障害のことは、わたしも職場で上司やスタッフたちに話していました。妻の体調がすぐれないときには、悠平の相手をするのは家族であるわたししかいないからです。実際に、大きな取材テーマが進行中のときに遅れて出社したり、妻からの電話で夕方職場を抜け出したりということもありました。上司やスタッフたちはいつも「気にするな」「早く帰ってあげてください」と言ってくれました。また、社内外の人から「実はうちの身内に発達障害の子どもがいる」とか「自分の娘が臨床心理士だから何か力になれるかもしれない」などと声を掛けてもらいました。それらのひと言ひと言に励まされました。
この6月で希望に適った部署に異動となり、今は家庭と仕事の時間のバランスを取るのに余裕も出てきました。おかげで妻の体調もずいぶんとよくなってきています。最初に家庭のことを職場で開示した際、迷いがなかったと言えばウソになります。異動に際しても、これも正直に言えば、家庭事情がなければ企業内でより責任の重いポジションに上がる可能性があったかもしれない、ということをまったく気にしなかったわけではありませんでした。しかしこの「迷い」は、わたし自身が自己実現について、企業内でのポジションだけではない生き方を模索することに決めたことで吹っ切ることができたように思います。長く「報道」、つまりは「伝える」ことを仕事としてきたわたしが、悠平とわたしたち家族のことをわたしなりの伝え方で書きつづっていくこのブログも、その一部です。
人は、同じ重荷を背負った人がほかにもいることを知ったとき、重荷に耐えて生きていこうとする勇気を得られるのだと思います。佐々木さんの著書が底流でこの考え方を貫いていることにわたしは共感を覚えましたし、そのことが本書の最大の価値だと思います。
東京も梅雨が明け、この連休は真夏の暑さが続いています。昨夜の夕食は悠平が大好きなから揚げにしました。偏食の改善にと、毎回トリ以外にもいろいろと揚げています。昨夜はスルメイカとミートローフを試してみました。悠平はミートローフは少しかじっただけで、ダメでした。混じっている香辛料がいやなのかもしれません。スルメイカは身もゲソもよく食べました。ちなみにミートローフのから揚げは「ビールにぴったり!」という感じ。お父さん向けにはお奨めです。