マイペース(!?)でがんばった運動会

 体育の日の連休の週末、大阪は好天に恵まれ、悠平の幼稚園でも運動会がありました。幼稚園からは事前に「同じクラスのみんなとのお遊戯が大好きで一生懸命に練習しています」との連絡をいただいていたのですが、結果から言えば、悠平はパニックを何度か起こし、このお遊戯にもとうとう出場しませんでした。親としては、集団生活の中でできるようになったことがある一方で、まだまだできないことがたくさんあることもよく分かりました。みんながグラウンドに出ている時に園児席に一人残っている悠平を見て、正直なところ、切ない気持ちにもなりました。でもそれは、悠平の次の目標がはっきりしたということですし、親として何をしてやれるかを今以上に考えて行かなければならないこともよく分かりました。悠平はこの日、途中で「帰る」とは言い出さず、最後まで会場にいることができました。悠平なりのがんばりと考えることにして、帰宅の道すがら、妻と一緒に「悠くん、がんばったね」とほめてあげました。
 運動会は午前8時20分集合、8時40分開始でした。午後3時までの長丁場で、当然、昼食の弁当も用意しなければなりません。妻と相談して、偏食が激しい悠平の弁当はこれしかないだろうということで、メニューはおにぎりと鶏肉のから揚げ、フライドポテト、果物にすぐに決まりました。早起きしてわたしと妻とで手分けして、などと段取りを考えながらハタと思い至ったのは、目の前で大好物のから揚げを作っていて、それを悠平が昼の弁当と理解できるかどうかでした。ふだんも幼稚園で給食が出るため、自宅では弁当は作りません。すぐに揚げたてのから揚げを食べられると思って、そうではないと分かるとどんな事態になるか―。このところ、いつもと違う状態に置かれた際の悠平のパニックが激しさを増していると感じているところなので、不測の事態を招くリスクを減らすために、まず妻が悠平と先に出発して、わたしが弁当を作り終わり次第、合流することにしました。
 作った弁当を持って運動会の会場に到着。しかし、妻によると、悠平は開会式が終わった直後からじっとしていることができず、クラスの保育補助の方(大阪府では障害児を受け入れている幼稚園に補助金を交付しており、悠平の幼稚園ではこれを人件費に充てて、クラスに担任教諭を補助する方を配置してくださっています)の手を引いて、園児席をさっさと離れてしまったようでした。午前中には悠平の年中組はかけっこがあったのですが、そもそもマイペースの悠平には無理なようでした。悠平にしてみれば、当然のことのようにパスしたようです。「まあ、じっとしてるわけがないと思ったけど」と妻と話しているうちに、午前中に悠平が出る最後の演目の親子体操に間に合うようにと、補助の方が悠平を連れて戻ってきてくれました。親子体操は妻が悠平と一緒に出て、わたしは写真係。悠平はぎこちなく動きながらも、お母さんと一緒で安心なのか、それなりに楽しんでいるようでした。
 昼の休憩と食事の時間。日差しを避けて保育室で弁当を食べようと、一足先に妻が場所取りに行き、後でわたしが悠平を連れて行くことにしたのですが、ここで悠平が最初のパニック。駐車している車か何かが気になるのか、その場を動こうとしません。そもそも、ふだんと違ってたくさんの保護者が詰めかけており、幼稚園やグラウンドの光景は悠平の眼にはまったく別の場所のように見えていたのだと思います。妻と合流するため、しょうがなく悠平を抱え上げると、手足をばたつかせて大泣き。構わず、そのまま保育室に向かいました。悠平はしばらく泣いていましたが、弁当を広げて手を拭いてやると、大好物のから揚げに手を伸ばしてパクリ。食べるうちに落ち着いてきて、泣き止みました。悠平の様子を見ながら、グラウンドで食べるようにした方が良かったかも、とこれはわたしの反省材料です。
 午後は、悠平もクラスの子たちと一緒に一生懸命に練習に取り組んだという、みんなで大きな風船を膨らませるお遊戯「パラバルーン」だったのですが、どういうわけか悠平は参加を拒否。集合場所までは何とか足を運んだのですが、どうしても列に並ぼうとせず、妻にしがみついたまま時折泣きます。クラスの女の子が次々に励ましに(?)来てくれても無表情。園長先生も「この種目は大好きやから、気が変わったら途中からでも」と言ってくださったのですが、悠平はその園長先生に向かってもべそをかきながら「バイバイ、バイバイ」と手を振る始末。とうとう、そのままお遊戯は始まってしまいました。
 補助の方や担任の先生、園長先生や教頭先生、いずれの方にお聞きしても、悠平はこのお遊戯が大好きで、練習の時は「もういっかい、もういっかい」と楽しそうだったそうです。先生方は「お父さん、お母さんにぜひ見ていただきたかったんですが」と残念そうでした。思うに、やはりいちばん可能性が高いのは、練習の時と違って保護者が大勢詰めかけていて、悠平にはまるで違う場所のように見えたことではないかと思います。
 閉会式では子どもたちがグラウンドに並ぶ中で、悠平は園児席で座ったまま。妻が隣りにいて安心なのか、おとなしくしていました。終了後、先生から記念のメダルとご褒美の「ソフトけん玉」をもらって帰ってきました。

 わたしにとっては、運動会はほかの子どもたちと一緒にいる悠平を見る数少ない機会でした。家で見ている悠平は、この夏は妻の療育の成果で、いろいろなことができるようになったことが目に見えて分かりました。一方で、ほかの子どもと比較するわけではありませんが、同年代の子と一緒にいるところを見て、いい意味で悠平の客観的な“実力”も見ることができたように思います。来年の運動会に向かっては、今年の経験を踏まえて、たくさんの保護者が来ていても、練習と同じことができるようになることが、これから1年の悠平の課題であり目標になるでしょう。その1年の間にも、いろいろなスモールステップを設定してやり、一つ一つを確実に達成して、少しずつでいいから着実に発達を促してやりたいと思います。
 うれしかったのは、同じクラスの子どもたちが何人も悠平に声を掛けてくれたり、気にしてくれたりしたことでした。担任の先生や補助の方をはじめとして、幼稚園のスタッフの皆さんも、悠平ばかりでなく園児一人ひとりを細やかな目で、本当に大切に見ていらっしゃることもよく分かりました。これから先、悠平がどこまで家族以外の「他者」を意識できるようになるかは分かりませんが、多かれ少なかれ、社会的な支援としてだれかの手助けを受けなければ、社会で自立を目指すのは難しいだろうと思います。「他者」とどう関わればいいのか、悠平が自ら学んでいく場の一つとして考えたとき、この幼稚園に悠平をお願いして本当に良かったと思います。


 おにぎりは妻が作ってくれました。わたしと妻の分には海苔を巻き、悠平の分には「これさえあれば、おかずはいらない」というぐらい大好きな、きなこをまぶしています。わたしが担当したのはから揚げ、フライドポテト、ネギ入り玉子焼き、ちくわキュウリに果物盛り合わせ(リンゴ、梨、キウイ、柿)です。朝6時に起きて、から揚げの漬け込みから始めました。外食で悠平が食べられるものを置いてある店をあれこれ探し回るよりも、たまには弁当を持って出かけるのも楽しいかもしれないな、と思いました。悠平は運動会の思い出として、お父さんから揚げの味を覚えていてくれるでしょうか。

 ※カテゴリーに「通園通学」を新設しました。幼稚園に入ってようやく半年ですが、来年には小学校進学の準備を始めなければなりません。普通級なのか特別支援級なのか、それ以前にこのまま大阪にいるのかどうか。いろいろな問題が押し寄せてきそうです。ひとつひとつ、親子3人で解決していこうと思います。