「家族―地域―絆」〜東日本大震災から1年

 妻(yuheimama)です。東日本大震災から1年がたちました。ここに、犠牲になった方々のご冥福をあらためてお祈りし、被災された皆様へお見舞い申し上げます。

 私ども家族は震災直前に東京から大阪へ転居して被災を免れました。細々と義援金や物資を送付しながら、「自分たちが被災していたら…」と考えずにはいられませんでした。避難を余儀なくされた場合、悠平はパニックを起こさずにいられるだろうか? 避難所では偏食の悠平が食べられる物を供給していただけるだろうか? 報道機関に勤務する主人は帰宅できるのだろうか? そうした日々の中で、以前のエントリー(日本自閉症協会が「防災ハンドブック」公開、支援者向け携帯版も)で紹介した社団法人「日本自閉症協会」ホームページの「自閉症の人たちのための防災ハンドブック」に目を通したり、自閉症児がいる家族の避難の様子を伝える新聞記事を見つけては読むようになりました(写真は朝日新聞201年3月22日/同4月26日の記事)。

 避難所がすべて閉鎖され、最近ではそうした記事を見かけなくなりましたが、大震災から1年たった今日、被災した「自閉っこ家族」の体験をまとめた『大震災 自閉っこ家族のサバイバル』(ぶどう社)を紹介したいと思います。編著者は仙台市在住の高橋みかわさん。作業所に通われている知的障害のある自閉症の息子さんを持つお母さんです。この本は、自らの被災・避難体験談のほかに、メールやブログなどでつながっていた石巻市在住の「自閉っ子ママ」たちの避難生活体験記、石巻支援学校の先生方へのインタビューをまとめた文章などからなっています。

大震災 自閉っこ家族のサバイバル

大震災 自閉っこ家族のサバイバル

 本文から被災した自閉っこたちの様子をいくつか紹介します。偏食で配給された食品が食べられない子、異常食欲で苦手なものまで食べるようになった子。ひたすら眠る子、眠れなくて睡眠薬を処方してもらった子。地域の避難所ではなく支援学校に避難したものの、いつも違う雰囲気に表情を硬くして布団をかぶってしまった子。ストレスがピークに達したのか、突然大声を上げてしまった子。体調を崩す子も。自宅の片付けに行って、部屋の「物の配置」を地震前の通りに(ゲームの配線まで!)直した記憶力抜群の子、等々。そんな自閉っこたちの周りにはいつも家族や支援者、協力者がいました。偏食やこだわりに対応したり、パニック対策で避難所内の場所の移動を周囲にお願いする親御さんや、避難する時に自閉っこのお気に入りグッズをすぐさま用意したきょうだいたち、自ら被災しながら自閉っこたちを気遣う先生や作業所スタッフ、ご近所さんや避難所で一緒になった方々。

 自閉っこならだれでもどれかに当てはまりそうなこだわりや感覚過敏、パニックへの対応はまさにサバイバル。高橋さんはこうした自閉っこ家族のサバイバルに共通するキーワードを「家族―地域―絆」だと捉えています。また、非常事態にあって自ら食べ物へのこだわりを崩したり、布団の中で自分を落ち着かせるなど、「究極の自己調整、適応力を発揮」していったことが、「彼らが本来持っている『生きる力』なのではないでしょうか」と指摘しています。同時に「そんな立派な力を持っているなら、何があっても大丈夫でしょうか。いいえ、それは違うような気がします。あのとき、自閉っこはとても辛かった。でも、そうするしかなかった……できるなら、平和な環境で、自閉っこの持っている『生きる力』を発揮できるようにしてあげたい」とも述べています。また、「この本に登場するママたちは、特別に療育の訓練をつんだ、勉強熱心なママたちではありません。どちらかというと自閉症療育の本はあまり読まないほうかもしれません。そのママたちが、あの過酷な状況の中で命と向き合い、自閉っこのことを考え、家族のことを思い、あれこれ悩みながらサバイバルしています。それは、誰よりも我が子のこと、家族のことを知っている『プロ』であるママだからできたのかもしれません」と書いています。私は生々しい体験談にただただ圧倒され、「ママたちは我が子の『プロ』」という言葉に強く引きつけられました。

 また、ご自身の息子・きらさんが大震災にあいながら非常に落ち着いていた(作業所スタッフ談)ことについて高橋さんは、障がいが重く、物事をイメージする力がほとんどないために地震を怖いとは思わなかったのではないかと推測しています。さらに「私たちはあの時、『これから何があるの?』『どうすればいいの?』『こんな生活がいつまで続くの?』と、先行きが見えない、見通しが立たない生活に、強い不安を持っていました。(中略)仲間から『きら君が安定しているのは何よりです。私たちにとっては今回の震災は非常事態ですが、きら君にとってはこれが日常なのではと思ったりしています』というメールをいただきました」と記しています。こうした捉え方はあくまで推測の域を出ないにせよ、目からウロコの発想でした。

 ここでは紹介しきれないエピソードがまだまだたくさんあります。興味を持たれた方にはご一読を勧めます。貴重な体験談を記録に残した高橋さんをはじめ、この本を世に送り出すために尽力されたすべての方々に敬意を表します。