世界自閉症啓発デー・発達障害啓発週間によせて〜悠平・解体新書!?<二覚編>

 妻(yuheimama)です。「悠平・解体新書!?」最終回は固有受容覚(こゆうじゅようかく)と前庭覚(ぜんていかく)の、<二覚編>です。五感が視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚であることは知っていても、この二覚というのは聞き慣れない方が多いのではないでしょうか。私自身、自閉症関連の書籍を読むまで二覚については全く聞いたことがありませんでした。この二覚について知ると、悠平の身体の不思議への理解がさらに深まりました。

 まずは固有受容覚についてです。固有受容覚は、関節や筋肉の動きを脳に伝える感覚です。必要に応じて手足などの曲げ伸ばしを調整します。悠平の場合、手足の曲げ伸ばしがスムーズにいかないために、リズムに合わせて踊っていても手足の動きがぎこちなかったり(これはこれでかわいいのですが!)、手先を使う折り紙が極端に苦手です。ドアを閉めるときには力加減ができなくていつも「バタン!」と力いっぱい閉めてしまいますし、逆に字や絵を書くときには筆圧が弱くてなかなか上手に書けません。こうしたことは、固有受容覚の認識の弱さに由来するようです。また、悠平は外出先や夜といった静かな状況でも大きな声で話したり歌ったりします。てっきり「社会性の発達の偏り」によって「空気が読めない」のが原因かと思っていましたが、これものどの筋肉に関係すると考えれば、固有受容覚の調整がうまくいっていないことに起因する可能性があるというので驚きです。

 また、定型発達者であれば、例えば目をつぶっていても自分の手や足がどこにあるのか分かるのですが、固有受容覚の認識が弱いと、見えていない部分がどこにあるのか分からなくなるそうです。以前、発達検査の際に「悠平君の右手の指は何本?」と聞かれると、見て数えて「5ほん」と答えることができましたが、手を後ろに隠して同じ質問をされたときには答えられませんでした。このように、固有受容覚のトラブルはボディイメージの未発達につながっているのです。

 次は前庭覚についてです。前庭覚は、体のバランスをとる感覚です。この感覚がうまく働かないと、姿勢を保てなくなります。悠平は<不思議編>でも触れたように、よちよち歩きをしないでいきなり走り出しました。療育を始めてから作業療法士に「体幹が弱く、バランス感覚が悪いためにゆっくり歩けず、スピードをつけてしまったのだろう」と指摘されました。また、まだ一人で着替えができなかったころ、着替えさせようと立たせると、すぐにもたれかかってきました。今でも、いすに座っていると姿勢が保てなくて、しばしばひざを曲げて片足をいすの座面に上げ、体を支えようとします。遊んでいるときも、いつの間にか寝ころんでいるので、これも姿勢を長時間保てないことに由来するのではないかと思います。

 このように、自閉症児・者は対人関係や社会性の面で見られる偏りのほかに、身体的なトラブルも抱えています。身体問題を知らずにいると、日常生活の中で、姿勢が崩れると「行儀が悪い」、ドアを力いっぱい閉めると「粗雑だ、乱暴だ」、上手に書けないと「練習が足りない、やる気がない」、走り回ると「落ち着きがない」と見てしまいがちです。こうしたトラブルは、作業療法士の指導を中心とした療育で改善を図ります。例えばボディイメージをつかみやすくするためのボールプール、前庭覚に刺激を入れるトランポリン、バランスをとる練習になる揺れる大型遊具など、感覚統合と言われる療育法です。

【主な参考文献】
岩永竜一郎『もっと笑顔が見たいから 発達デコボコな子どものたちのための感覚運動アプローチ』(花風社)

もっと笑顔が見たいから―発達デコボコな子どものための感覚運動アプローチ

もっと笑顔が見たいから―発達デコボコな子どものための感覚運動アプローチ

木村順監修『発達障害の子の感覚遊び運動遊び』(講談社

発達障害の子の感覚遊び・運動遊び 感覚統合をいかし、適応力を育てよう1 (健康ライブラリー)

発達障害の子の感覚遊び・運動遊び 感覚統合をいかし、適応力を育てよう1 (健康ライブラリー)

木村順監修『発達障害の子の読み書き遊びコミュニケーション遊び』(講談社

 今年の発達障害啓発週間には、悠平の例を中心に身体問題を見てきました。障害特性は個人差が大きいので、ここでは触れなかった様々な問題を抱えていらっしゃる方も多いと思います。表面化した身体トラブルにパニックが加わろうものなら、「しつけの悪い子」「しつけができない親」とレッテルを貼られることにもなりかねません。私自身、悠平が自閉症でなかったなら、こうしたことを知らずに過ごしていたと思いますし、そうしたお子さんを見た時にどのような印象を持ったか分かりません。

 周囲からどう見られるかを気にしていたら、本当に困っている息子の支援にまで手が回らなくなってしまいますが、こちらも人間。正直なところ苦しいときも多々あります。息子の困り感と親の心労を少しでも減らすためには、急がば回れで、療育としつけを日々積み重ねながら、自閉症について、発達障害について情報発信していくしかないだろうと思います。今年の世界自閉症啓発デーと発達障害啓発週間、ブログ記事を書きながら、そんなことを思って過ごしました。