「絵本の力」を確信――『クシュラの奇跡』を読んで

妻(yuheimama)です。悠平は親が思っていた以上に学校に適応している様子で、うれしいような、ちょっと怖いような気がしている今日この頃。帰宅後は相変わらずパソコンやプラレールトミカなどで遊んでいます。パソコンをやる時間が長いのが少々気がかりではありますが、絵本の楽しさを知っている悠平は、今も日に数回は絵本の読み聞かせをリクエストしてきます。

絵本は悠平にとって楽しみであると同時に、言語力や思考力を伸ばす上でプラスの働きをしているのではないかと、これまで折に触れて感じていたのですが、先日読んだドロシー・バトラー著・百々佑利子訳『クシュラの奇跡――140冊の絵本との日々』(のら書店)によって、その思いは確信に変わりました。そこで今回はこの本を紹介します。

クシュラの奇跡―140冊の絵本との日々

クシュラの奇跡―140冊の絵本との日々

著者は1925年、ニュージーランド生まれの児童文学者であり、読書教育の第一人者です。『クシュラの奇跡』は、染色体異常による重複障害を持って生まれた著者の孫、クシュラさん(71年生まれ)への絵本による子育てと発達の関係を考察した著作で、「クシュラ、ある障害児のケース・スタディ――生後三年間の日々を豊かにしたもの」と題する、オークランド大学教育学位論文(75年)に基づいています。

クシュラさんは生後すぐに、身体的な障害が見つかり、その後も次々に病気に見舞われ、子育ても困難なものでした。ご両親は、昼夜を問わずなかなか眠らないクシュラさんとの長い時間をもたせるために、生後4カ月から絵本の読み聞かせを始めました。医師は知的障害の疑いを絶えず口にしたとのことですが、クシュラさんは早くから絵本に関心を寄せ、集中して見聞きしたといいます。次第に気に入った本があらわれると、弱々しいながらも腕を振ったり足をばたつかせて興奮している様子を示すようになりました。障害や病気のために、自ら行動して得られる直接体験の極めて少ないクシュラさんにとって、絵本は「外界との接触を保つ」手段になりました。

この本では具体的にどのような本と接しながらクシュラさんが認知力、言語力を発達させていったかを記録・考察しています。クシュラさんの認知力は18カ月を過ぎたころには医師たちが言うほどに遅れてはいなかったように思われ、言語面では本で覚えた表現が多数、聞かれるようになったそうです。著者は「ここで次のような結論が導き出される。つまり、もしもある子どもが、耳から聞いた本のなかの言葉や句をとらえて、記憶し、別の文脈のなかで適切に使う能力を示したとすれば、その子は言葉のレパートリーをひろげたのであり、したがって認知能力を増したことになる」(pp184-185)と記しています。

翻って悠平の場合を考えると、大学病院の初診時には「一生、しゃべれないかもしれない」と言われ、発語があった後、別の医師に、絵本のセリフを暗記して声に出していることを話したものの、言語の発達には関係がないとの趣旨の話をされ、認知レベルの向上も大きくは望めないとの説明を受けました( 「あっけない告知「自閉症です」」を参照ください )。

悠平には、障害が判明するずっと以前、生後3カ月から毎日数時間、絵本の読み聞かせを続けていました。悠平は4カ月の終わりごろには絵本の最終ページにくると「うー」と声を上げるようになり、8カ月ごろには見開きページを読み終えると、ページをめくるよう催促するかのように「うー」と発声していました。さらに、あいさつの絵本を読み聞かせると、それを真似て、発語はなかったものの食事の前には手を合わせるようになりました。悠平の場合、障害が分かってからは読み聞かせと並行して療育を施してきた効果もあると思いますが、発達指数DQは、医師の言葉に反してその後3年間で20延び、不完全ながらも3語文以上を話し、絵本のセリフを状況に合わせて使ったり、比喩表現を使うこともできるようになりました( 「セリフにびっくり、センスにうっとり!?」 を参照ください)。

もしかするとクシュラさんの場合も、悠平の場合も、相当量の読み聞かせをした結果のレアケースなのかもしれません。しかし障害児の認知・言語の発達に対する絵本の持つ可能性は、『クシュラの奇跡』を読むことによって、否定できないと私は確信しました。現在7歳の悠平にこれまで読み聞かせた絵本は、自宅にあるだけでも300冊以上。『クシュラの奇跡』を読み、これからも悠平が望む限り絵本の読み聞かせを続けようと思いを新たにしました。そして、いつか自閉症児・悠平と絵本との関わりを振り返り、まとめてみたいと、ちょっと野望(!?)を抱いたyuheimamaでありました。