童話の原典

妻(yuheimama)です。悠平に絵本の読み聞かせをするための絵本選びには、ちょっとばかり気を使っています。まずは悠平が楽しめることが大前提なので、本人の興味・関心に沿ったものや体験したことを深められる内容のものを探します。そうした絵本の中に時折、これは知っておいてほしいと思う昔話を加えています。

昔話は、たくさんの出版社が同じタイトルの本を出しているので、どれを選ぶか悩みます。過去には、悠平の集中できる時間と理解度を考えて、かわいく簡単に描かれた絵本を数冊購入しましたが、そうした絵本は、日本語が変に口語的で書き言葉として適切でないと感じられたり、ストーリーを簡略化してしまったためにテーマがはっきりしないものが少なくありませんでした。さらには話の結末が変えられている場合も多々あります。ですからそうした本はあくまで入門編ととらえて、今はできるだけ原作に忠実で、挿し絵もマンガ風ではなく、絵画やイラストとしてしっかりと描かれたものを選んでいます。すると、私自身に大きな発見がありました。

まず、衝撃的だったのは『三びきのこぶた』です。私が知っていたストーリーは、こぶたの兄弟がそれぞれに家を建て、狼に襲われるというもの。楽をして藁や木で家を建てたこぶたは狼に家を吹き飛ばされ、労を惜しまず煉瓦で家を建てた兄弟の家に逃げ込んで難を逃れ、狼はあきらめて帰って行くというものでした。その教訓は「手抜きをしないで努力をすることが大切だ」というものだと思っていました。『三びきのこぶた』はあまりに有名で、たくさんの本が出ているため、悠平には原型にもっとも近い話を読み聞かせたいと思って探したところ、もとの昔話を忠実に絵本化したとする福音館書店『三びきのこぶた』にたどり着きました。

三びきのこぶた

三びきのこぶた

読んでみると、私が知っていた話とはだいぶ違っていました。まずはなぜ三匹が家を建てなくてはならなかったかの理由が衝撃でした。家庭が貧しく、母親に自立を迫られたのです。家から出されたこぶたたちは、それぞれに藁や木材を運んでいた人に頼んで材料を譲ってもらって家を建てたのであって、意図的に手抜きをしていたわけではありませんでした。家を建てたところを狼に狙われ、煉瓦の家に逃げることもできずに、藁と木の家のこぶたは二匹とも食べられてしまいます。三匹目の煉瓦の家を作ったこぶたは、狼と知恵比べのような駆け引きを繰り返し、最後には煙突から侵入してきた狼を釜茹でにして、逆に食べてしまいます。この話からは、一般に流通する「努力が大切」といった教訓は感じられず、現実世界の厳しさや残酷さ、知恵者のサバイバル術を感じました。これを子どもに読むには残酷すぎるととらえる方もいらっしゃると思いましたが、私はこの絵本を読んでから、再話や原作をできるだけ尊重した上で、悠平の成長にあった絵本を選びたいと思うようになりました。

そこで最近読んだのが『ペローの昔ばなし』(白水uブックス)です。シャルル・ペローは『シンデレラ』の著者で、17世紀の人物です。同書には、ペローによる『サンドリヨン(シンデレラ)』『赤ずきん』などが収められています。これを読むと、私が子供のころにディズニーで知ったシンデレラとは違い、シンデレラの父親は生きていて、シンデレラが王子様と結婚すると、意地悪な姉たちを許して貴族と結婚させてあげます。ディズニー的な「シンデレラ・ストーリー」のハッピーエンドというだけでなく、心のやさしさ・美しさが大切であることを教訓としていて、この点こそが原作のテーマだと思いました。また、赤ずきんちゃんでは、最後におばあさんを助け出すどころか、赤ずきんちゃん自身も狼に食べられてしまいます(同書の解説によると、グリムの『赤ずきん』はペローの話から発したものと考えられているそうです)。

ペローの昔ばなし (白水uブックス)

ペローの昔ばなし (白水uブックス)

これに続いて『初版グリム童話集』(白水uブックス)の1・2巻も読んでみました。グリム童話は、初版から第7版まで改訂され、現在、子供向けに紹介されているものは第7版に拠っているそうです。そういうわけで、悠平のためにということであれば、第7版を参照するべきなのでしょうか、私自身が昔話の原型に興味を持ってしまったので、まずは初版を読んでみました。同書には『赤ずきん』や『ヘンゼルとグレーテル』『白雪姫』などが収められています。ペローの『サンドリヨン(シンデレラ)』を基にした『灰かぶり』では、靴がガラスではなく金の靴で、お姉さんたちは金の靴に足を合わせるために、ナイフで踵を切り取ったり、つま先を切り取るという「本当は怖い」展開になっており、驚かされました。

初版グリム童話集(1) (白水uブックス 164)

初版グリム童話集(1) (白水uブックス 164)

  • 作者: ヴィルヘルム・カール・グリム,ヤーコプ・ルードヴィヒ・グリム,吉原素子,吉原高志
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2007/11/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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悠平はすでにディズニーでシンデレラを知り、赤ずきんちゃんも幼児雑誌で見知っています(ディズニーの絵本については「ディズニーランドから広がる物語の世界」を参照ください)。原典に即した絵本は悠平が理解するにはまだ難しいと思いますが、せっかく図書館が近くにあるので、時間を見つけて絵本を読み比べ、悠平なりのタイミングで最適な絵本を選んで読み直していきたいと思います。