世界自閉症啓発デーに寄せて――療育の効果

妻(yuheimama)です。世界自閉症啓発デー、発達障害啓発週間にあたり、今回は療育、特に幼児期の早期療育を取り上げたいと思います。


【はじめに】
自閉症を告知された場合、ほとんどのお子さんは療育を受けることになる思います。療育機関には、地域の福祉センターや療育センターのほか、病院・クリニックや民間療育機関があります。民間機関の中には「普通学級に入れた!」等のキャッチコピーで宣伝するところもあります。一方で、さまざまな療育を受けてみたものの、あまり効果を感じられなかったという声もあり、親としては何を基準に療育機関を選んだらよいのか迷うところです。

悠平の場合、初めは障害告知された大学病院からの紹介で自治体の福祉センターに通い、その後、転居などで療育機関が何回か変わっています。幼児期の療育法は機関によって、心理士による個別療育、グループ療育、TEACCHとさまざまでした(TEACCHについては「最近始めた生活支援」(2011年11月26日)を参照ください)。では、そうした複数ある療育法をその時々で選択したのかというと、そうではありません。いずれの療育機関も希望者が多く、時に順番待ち、時に抽選という具合で、療育法を選択する余地はなく、まずは専門家による療育機会の確保が優先事項でした。結果的には多様な療育を受けられて良かった思っていますが、折りにつけ、前述のような療育効果を唱う療育法を耳にすると、「もっと効果的な療育法があるのでは?」と気持ちが揺れたのも事実です。

悠平は幼児期に発達指数DQが伸び、データに基づいて「療育効果があった」といえると思いますが、それによって自閉症が治ったわけではありません。また、早期療育を受ければ誰でもDQが上がり、障害特性が大幅に緩和されるというわけでもないようです。悠平に発語があったとき、ST(言語聴覚士)に将来的な言葉の発達の見通しを尋ねたところ、「未知数です」と言われましたが、早期療育の効果も未知数なのでしょうか。「自閉症、療育、効果」をキーワードに、療育効果の検証データを探してみました。


【検証データ】
手始めに日本語の文献を何本か読んでみると、米国のNational Research Council(以下、NRC)による‟Educating Children with Autism(National Academies Press,2002/直訳すると「自閉症児の教育」といったところでしょうか)”を引用している場合が多いことに気が付きました。引用箇所を中心に確認してみると、米国内で行われているTEACCHを含む10種類の早期集中介入が紹介されていました(介入は療育と同義。本文では米国については原文に従い「介入」、日本については通例に従い「療育」と表記します)。

ある介入法では、半数近くの子どものIQが健常域に達したというデータが示され、別の介入法では約半数が自閉症の診断基準を満たさなくなったとするデータが示されています。こうした顕著な効果が見られた子どもの介入前の状態については、重度から軽度までさまざまで、どういう子どもに対して効果があったのかという明らかな傾向は見出されていません。また、そうした効果が一つの介入法の成果によるものなのか、ほかの介入やセラピーの影響もあるのかは明確でなく、ある介入法がほかの介入法より効果的だという根拠も示されてはいません。

同書で取り上げた10種類の介入については、「できるだけ早い介入、集中的な介入(大体、週20時間から40時間)、高度な訓練を受けた専門スタッフによる介入、親の参加の重要性、個別対応の重要性」が共通しており、早期集中介入を受けた大部分の子どもに良好な効果が見られるとしています。

一点補足すると、「親の参加」の仕方は介入法によって異なり、週に何時間携わるのか、席にマンツーマンでつくのか、一緒に遊ぶかなど、幅があります。また、親による介入を重視すると共に、親に対するトレーニングやストレスケアなど、家族支援を強める方向にあるとのことです。


【日本の場合】
日本の場合はどうでしょうか。私が探した範囲では、国内の療育を対象とした、こうした検証データは見あたりませんでした。

米国の「できるだけ早い介入、集中的な介入、高度な訓練を受けた専門スタッフによる介入、親の参加の重要性、個別対応の重要性」に照らしてみた場合はどうでしょう。小児科医・平岩幹男氏は「療育を始めるのは3〜4歳がピークです。もちろん、早い年齢から療育に進み、発達の遅れが大きく改善しているケースがあります。いずれはより早く療育が始められるようになるといいですね」「発達障害、特に自閉症では、症状は子どもによってそれぞれ大きく違うので、本来は個々の状況に応じて療育の内容を変えなくてはいけません。ただ特に各市区町村の療育センターのような公的機関は、個々の発達状況をチェックする一方、それぞれの子どもたちに合わせたプログラムを作成したり評価したりするよりも、小集団の中だけで療育しているケースがほとんどです」と、早期療育、個別対応の重要性を指摘しつつ、現状には改善の余地があるとの認識を示しています(毎日新聞、2016年10月20日/平岩氏の著書について、ブックレビューを掲載しています)。

米国の早期集中介入が目指すべき理想型なのかどうかは、私には判断できません。まずは国内の療育形態、効果の検証が横断的に行われることを望みます。その際、米国で重要性が指摘されながら、国内では十分に取り組まれているとはいいがたい「集中的な介入、親の参加、個別対応」の是非についての考察も必要だと思います。個人的には、週40時間にもわたる集中介入にデメリットはないのかも気になるところです。また、「親の参加」について、悠平が受けたTEACCHでは、親を共同療育者と位置付けています。わが家では家庭でも視覚支援や療育課題に取り組みましたが、それはセンターからの指示ではなく、「2週間に1回だけより毎日少しずつ」と考えた上での取り組みでした。一方で親が療育スキルを身につけて家庭で取り組むことは、家庭の事情(きょうだい児の有無や介護・就労の状況など)や親自身の適性、ストレスといった諸条件を考慮すると、一律に課せられないとも思います。


【おわりに】
「普通学級に入れた!」というコピーは確かに魅力的かもしれませんが、そこには何人中何人が普通学級に入れたのか、卒業するまで普通学級に適応したのかなどのデータは明示されているでしょうか? データがないのであれば、「普通学級に入れた!」という言葉は、「必ず普通学級に入れます」という保証ではなく、「入れるようになった子もいます」くらいに受け止めておいた方がよいように思います。そして、普通学級以外にも生きる道があることを知っておきましょう!? 

こうしてみてくると、療育には効果が期待できるものの、現状では誰にでも確実な効果を見込める療育法があるとは言えないようです。まずは得られた療育の機会を最大限生かすことを考え、家庭でも可能な範囲で取り組んでみることが現実的な選択であるように思います。取り組みは机上課題に限らず、声かけの工夫や視覚支援、子どもの興味・関心に合わせて一緒に遊ぶことなど、できることから毎日少しずつ始めればよいのではないでしょうか。何から手を着けたらよいか分からない場合は、療育スタッフに相談してみるのも一案です。

初めは「できる、できない」に目を奪われがちですが、中長期的には子どもの様子や変化を見ながら、「合う、合わない」という視点を持って療育法や教育環境を選択していくことも大切だと思います。