好きな電車、嫌いな電車

 大阪・高槻市に転居してきて8カ月余り。電車が大好きな悠平は、JR西日本阪急電鉄の車両にもすっかり慣れてきましたが、一方で「電車であれば何でもいい」というわけではないことが分かってきました。電車の中にも好きな車両、乗るのが嫌いな車両があります。嫌いな車両に無理に乗せようとすると、ホームで大パニックを起こして泣き叫びます。こだわりがますます強くなっているようですが、電車の中にも好きな電車と嫌いな電車があることに少なからず驚きました。わたしや妻の対策としては、外出の際には入念に下調べをするか、時間に十分な余裕を見込んでおくしかありません。
 わが家がJRで大阪中心部や京都に行こうとする際、選択肢に上る電車の車両は、だいたい3種類です。写真上から新快速用、快速用、各駅停車用。本当は223系、221系、321系といった呼び名があるのですが、鉄道ファン以外の方にはなじみが薄いと思いますので、ここでは分かりやすく呼びます。ただし、「新快速用」と言っても、この車両で各駅停車や快速を運行することがままありますし、「快速用」もJR西日本の管内の至る所で各駅停車に使われています。あくまでもわが家の便宜的な呼び名です。



 悠平のいちばんのお気に入りは各駅停車用。絶対に乗ろうとしない嫌いな車両は新快速用で、快速用は各駅停車用の車両が見当たらない路線でならおとなしく乗りますが、各駅停車用が走っている区間、例えば高槻駅からは乗ろうとしません。そして、特に新快速用が嫌いという点が、わたしや妻にとっては実にやっかいなのです。
 新快速というのは、滋賀県(一部は福井県敦賀まで)から兵庫県まで、途中、京都、大阪、神戸を結んで走るJR西日本自慢の電車です。京都〜大阪間の停車駅は高槻と新大阪だけ。これに乗ると、高槻から京都まではわずか12分、大阪までも18分ほどです。ちなみに各駅停車では京都、大阪までそれぞれ22〜24分。それだけの違いなら大したことがないようにも思えますが、実はそうでもありません。特に寺社巡りなどで京都方面に向かう場合が大変です。
 新快速はおおむね1時間に4本、15分おきに走っていますが、悠平が好きな各駅停車の電車は大阪方面からやってきて高槻が終点になるものが多く、京都まで走るのは1時間に2本しかありません。京都まで行く各駅停車でも、悠平はこの車両でなければ絶対に乗りません。高槻まで快速で運転し、その先は各駅停車で滋賀県方面まで行く電車もあるのですが、これは新快速用や快速用の車両です。まとめて言うと、15分おきに新快速がびゅんびゅん走り、合い間に各駅停車も同じぐらいの本数が走っているのに、わが家が乗れる電車は30分に1本しかないのです。
 しかも、京都に着いてからがまた一苦労。自分が乗ってきた乗り物は、バスでも電車でもタクシーでも、発車するのを見送らなければ気が済まない「出発進行ルール」です。新快速ならすぐに発車ですが、各駅停車用の電車は、時間帯によっては折り返しで京都を発車するまで20分ほど停車しています。分かりやすくまとめてみます。

  • 【新快速利用】15分に1本運行。12分で京都に着き、すぐに次の行動に移ることができる。
  • 【悠平ルール】30分に1本。各駅停車で20分余。「しゅっぱつしんこー」に20分かかることも。

 最初はイライラしていましたが、今はそういうものだと考えることにして、わたしも悠平と一緒にホームのベンチに座り、行きかう電車を眺めながら「しゅっぱつしんこー」までの時間をつぶすようになりました。思えば達観してきたものです(笑)。
 悠平は転居した当初は新快速にも乗っていたのですが、いつのころからか、各駅停車に強い愛着を見せるようになりました。大阪方面に向かう際には、高槻が始発になる電車がけっこうな本数あります。新快速を待っているホームの反対側に、発車を待つ各駅停車が停まっている光景がよくあるのですが、そういう場合に悠平は「これ、これ」と言いながら、わたしの手を引いて各駅停車に乗り込むようになりました。どうやら各駅に停まるのが好きらしい、駅を飛ばすのはいやなのかな、と考えました。しかし、各駅停車でも新快速用の車両で運行していると、いくら「各駅停車だよ」と言って聞かせても「いや!いや!」と絶対に乗ろうとしません。乗る乗らないは車両の違いと考えるほかないとの結論になりました。
 新快速用の車両のどこがどう嫌いなのか、悠平は言葉で表現できないので分かりません。各駅停車用のどこが好きなのかも分かりません。わたしたちから見れば、電車としての機能に違いがあるはずもないのですが、悠平にとっては見過ごすことができない大きな問題がそこにあるのだと思います。ただ、各駅停車用の電車に乗った時、悠平は本当にうれしそうな顔をします。その顔を見ると、「まあいいか」と思えます。別に急ぐ必要はなし、悠平のペースで一緒に歩んで行こうか、と。