「発達障害当事者による体験談など」
言葉によるコミュニケーションが難しい自閉症児の親にとって、言葉で書かれた当事者の証言は非常に貴重なものだと思います。自閉症(スペクトラム)と一言でいっても症状は人それぞれに違うので、体験談に個人差があるのは当然としても、定型発達者とは異なる思考、感覚を想像するのには参考になります。
・テンプル・グランディン『
自閉症感覚 かくれた能力を引きだす方法』(
NHK出版) 著者は
自閉症の視覚優位の特性を生かした研究で成果を上げた
コロラド州立大学准教授(出版当時、動物行動学)。専門分野のほかに、
自閉症の当事者として講演・執筆活動をしており、本書は「
自閉症者自身によって書かれた
自閉症支援の究極のエッセンス」(辻井正次
中京大学教授)です。
自閉症スペクトラムの特殊な思考タイプを「視覚思考」「音楽、数学思考(様式中心)」「言葉の論理思考」の3種類またはその混合型ととらえ、それぞれの思考パターンに合わせて得意な分野を伸ばすことが効果的だとしています。また、早期療育のみならず、子どもの関心事をテーマにして学力を伸ばすようアド
バイス(実は私が悠平の療育に
トミカやカーズのキャラクターを取り入れたのは、このアド
バイスに基づいています)。ほかにも感覚刺激についてや問題行動への対処、社会のルールを学ばせる等、
自閉症の入門書としても最適だと思います。
・ニキ・リンコ、藤家寛子『自閉っ子、こういう風にできてます!』(花風社) 二人の
アスペルガー症候群当事者による、
自閉症者独特の認知の仕方や身体感覚についての対談です。身体感覚についてのやりとりは目からウロコの連続で、
自閉症スペクトラムが社会性やコミュニケーションの障害というだけでは理解しきれないことが分かります。興味を持たれた方は続編もありますのでぜひ。また、著者お二人にはそれぞれに著書があり、ニキ・リンコさんには
自閉症児・者独特の発想の仕組みを自分なりに解説した『俺ルール』『自閉っ子におけるモンダイな想像力』(いずれも花風社)などがあり、つい笑ってしまう箇所が多々あるのですが、そこにまた新たな気付きがあり、うならされます。
・東田直樹『
自閉症の僕が跳びはねる理由 会話のできない中学生がつづる内なる心』(
エスコアール出版部) 悠平がたびたびぴょんぴょん跳びはねるので、タイトルに引かれて読んでみて、素直に感動した本です。著者は1992年生まれの
自閉症者で、執筆当時は特別支援学校に在籍する中学生でした。サブタイトルにあるように会話ができないのですが、トレーニングによって筆談やパソコンでの執筆ができるようになったそうです。内容はぴょんぴょん跳びはねる理由のほかに、どうして上手く会話できないのか、どうして目を見て話さないのか、フラッシュバックはどんな感じか、どうしてパニックになるのか等々、
自閉症に特徴的な症状について著者なりの回答を記しています。回答からはご本人のつらさや悲しみが伝わってくるものも多く、切なくなりましたが、巻末の短編小説「側にいるから」を読むと心が洗われるようで、著者は優しく心清らかな方なのだろうと感じました。