発達障害啓発週間によせて〜ブックレビュー(4)完 親による著作・漫画・番外編

「親による著作」
 障害児を持つ親御さんによる著作は、親として共感できる点や参考になることがあります。お子さんのスキルアップのハウツーを中心にまとめたものや、経験談、苦労話等々いろいろあるので、ご自分のニーズに合ったテーマの本を選べばよいかと思います。私見ですが、親による著作というとお母さんの手による書籍が多いように感じるのですが、ここでは異彩を放っている(?)お父さんによる著作を取り上げます。

自閉症の子どもと家族の幸せプロジェクト―お父さんもがんばる!「そらまめ式」自閉症療育

自閉症の子どもと家族の幸せプロジェクト―お父さんもがんばる!「そらまめ式」自閉症療育

・藤居学『自閉症の子どもと家族の幸せプロジェクト―お父さんもがんばる!「そらまめ式」自閉症療育』(ぶどう社) 著者は外資系金融機関にお勤めで認定心理士の資格を持つ、重度自閉症女児のお父さんです。自閉症の療育は専門機関に主導してもらうものではなく、あくまで親が家庭で取り組むものだという前提に立ち、家を空けている時間の長い父親の役割を、療育という一大プロジェクトに向かう家族というチームの「プレイング・マネージャー」と位置づけることを提案しています。プロジェクトは課題、療育理念、中長期的な将来像、短期的な目標、そのための当面の療育方針で構成。療育はTEACCH、ABA、絵カードなどの基本を押さえ、課題づくりのノウハウも盛り込まれています。療育プロジェクトをビジネス用語を駆使して解説している点がユニークで、家庭療育にどのように関わっていけばよいか迷っているお父さんはもちろんのこと、目の前のことに追われがちなお母さん(私のこと!?)の頭の整理にも役立つと思います。

「漫画」
 自閉症を題材にした漫画も多数出版されています。活字だけではないので読みやすい上、複数の登場人物による障害の多様な捉え方を描いている点などは、フィクションとはいえあなどれません。

戸部けいこ光とともに…自閉症児を抱えて』(秋田書店) 自閉症児・光の誕生から中学卒業までを、家族、親戚、友人、教師、医師などとのかかわりを交差させながら描いています。あえて主人公はだれかといえば、光自身というよりも母親・幸子となるかと思いますが、登場人物それぞれの子育て・家庭の事情・生き方を丁寧に描いています。自閉症児の子育てを特殊なものとせずに、無数にある子育ての一つと捉えているように感じました。コミックでは全15巻、現在文庫も刊行されています。著者の戸部さんは残念ながら最終巻を描き終える前に他界されており、最後の29話・30話はラフとネーム(構想ノート)の掲載となっています。2004年には日本テレビ系列でテレビドラマ化されました。

「番外編」
 発達障害に特化した本ではないのですが、昨年、感銘を受けた本を紹介します。

利他のすすめ~チョーク工場で学んだ幸せに生きる18の知恵

利他のすすめ~チョーク工場で学んだ幸せに生きる18の知恵

・大山泰弘『利他のすすめ』(WAVE出版) 著者はチョークを作る会社、日本理化学工業(株)会長で知的障害者雇用に積極的に取り組んでこられた方です。タイトルの「利他」とは人の役に立つことで、著者は「人は働くことによって、人にほめられ、人の役に立ち、人から必要とされるからこそ、生きる喜びを感じることができる」のだと考えています。同情から始めた障害者雇用から、転機が訪れ、働く幸せを手にすることのできない障害者のための工場を作っていこうとする過程で「利他の積み重ねが、幸せな自分をつくる」という考えにたどり着きます。本文中には具体的な就労支援の例も描かれており、例えば正確に100g量らなければいけないのに、知的障害者には100gが理解できず、目盛で測ることができません。そこでチョークの材料を入れる容器の色とおもりの色を同じにしたら、迷うことなくできるようになったというのです。健常者の当たり前を押し付けるのではなく、障害者の理解力にあったやり方を考え出せば、健常者と同じ仕事ができるのだと考えるようになり、数字を理解できない彼らに仕事上の「壁」があるのではなく、自分たちの中に「壁」があったのだと思うに至ります。親でありながら子どもに自分のやり方を押し付けて「どうせ言っても分からないのよね」と怒ったり情けなくなったりしているときに、子どもに合わせてもっと工夫はできないものだろうか、必死で考え行動しているときこそ自分は生かされているのではないか…そんなことを考えさせてくれる本でした。