世界自閉症啓発デー・発達障害啓発週間によせて〜悠平・解体新書!?<五感編>

 妻(yuheimama)です。「悠平・解体新書!?」の2回目・3回目では、自閉症の身体感覚の問題を取り上げたいと思います。自閉症は先天的な脳の機能障害で、「コミュニケーションの発達の偏り」「想像力の発達の偏り」「社会性の発達の偏り」という三つ組の障害であると言われます。そのためか、対人的な特性に目が行きがちなのですが、身体的にもトラブルを抱えていることがあります。身体的なトラブルというのは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感と固有受容覚(こゆうじゅようかく:関節や筋肉の動きを脳に伝える感覚)・前庭覚(ぜんていかく:体のバランスを取る感覚)の二覚に障害が生じ、五感に敏感であったり鈍感であったり、二覚に由来する特性です。今回は悠平の例を中心に五感に表れる特性を紹介します。

【視覚】
 悠平は視覚刺激に弱いと指摘されています。例えばスーパーやデパートなど、一度にいろいろなものが視界に入ってくる場所では、どこに焦点を絞っていいのか分からないのか、脱力してしまったり、逆に多動になってしまいます。最近では自覚があるのか、自分で買いたいものがないときは、売り場に行くのを嫌がるようになりました。療育のときなど、パーテーションで空間を区切って視覚刺激を遮ると課題に集中できるというのも、こうした特性に由来します。

【聴覚】
 悠平には今のところ、聴覚に関しては過敏さや鈍感さは見受けられませんが、それでも自分が興味のある乗り物の発車音などには敏感で、それまでやっていたことを放り出して音の方へ突進していくことがあります。一般論になってしまいますが、聴覚過敏の方の場合、周囲の音が聞こえすぎてしまい、例えば複数の人が同席している場所で、誰の声に集中すればいいのか分からなかったり、定型発達者(健常者)には気に掛からないような小さな音も聞こえすぎてしまい、四六時中、騒音に悩まされているような状態の方もいるようです。こうした特性の方は、イヤーマフというノイズを遮るヘッドフォンのような器具をつけると不快感が軽減されるそうです。また、中には絶対音感があり、音楽に才能を発揮する方もおられますが、そうした人の場合、例えば歌や楽器の練習中の、正しい旋律からはずれた音を聞くのは苦痛だと言います。

【嗅覚】
 悠平は小さいときから、初めての食べ物を口に入れる前に匂いをかいで、食べるか食べないかを決めたり、私の手のひらの匂いをかぐことがありました。小さい子どもには往々にしてあることかもしれませんが、それにしても頻繁に私の手の匂いをかぐので、診断前には不思議に思っていました。今でも、例えばタクシーに乗るときに急にパニックを起こすことがあるのですが、視覚的な原因が分からない場合、私には気付かない嗅覚刺激や聴覚刺激に反応しているのかもしれないと思うことがあります。

【味覚】
 悠平の場合、ズバリ偏食です。偏食の原因は、味覚の問題の他に、料理の匂いや色などが関係している場合もあるようですが、悠平の場合は圧倒的に味と食感のようです。悠平はカリカリした食感のものが好みのようで、揚げ物やフライの衣が大好きです。不思議なことに離乳食の時期には青物野菜や青魚までよく食べていたのが、1歳半ころから急に、昨日までバクバク食べていたものを嫌がるようになりました。牛乳など、それまで1日に数回、200ml〜240mlを一気飲みしていたのに、全く飲まなくなったので本当に不思議でした。ただこの偏食、成長と共に必要な栄養素を体が求めて減っていくとも聞きます。悠平は炭水化物と揚げ物の毎日なので、野菜を食べられるようになることを願っています。

【触覚】
 悠平は、粘土や泥遊びなど、手が汚れる遊びが苦手です。以前は食事の時にカレーライスやヨーグルトを手づかみで食べようとしていたのに不思議なのですが、ぬるっとするものやねちゃねちゃした感触のものを触るのを嫌がります。悠平は手の触覚にそうした特性がありますが、人によっては雨やシャワーを痛いと感じたり、皮膚にあたる肌着の縫い目を痛いと感じる方もいるそうです。

 以上が五感について、悠平の場合とその補足です。こうした感覚の問題は、変化することはあっても「慣れる」とか「治る」ということがないので、対処療法的に対応していくことが必要です。さらに発達障害の場合、五感の統合・調整がうまく機能しないことから起こる問題もあります。例えば、定型発達者の場合は五感から入った情報が脳で統合・調整されるので、何かを見ているとき(視覚)や食べているとき(味覚)に声を掛けられたのを聞くと(聴覚)、気付くことができますが、発達障害者の場合、その統合が適切に機能しないので、見ているときや食べているときに声を掛けられても気付かないという現象が起きます。一つの感覚を働かせると、他の感覚が鈍くなったり働かなくなる「シングルフォーカス」という現象です。

 こうして五感の問題だけ見ても、定型発達者仕様でできている環境で生活していく発達障害者の困難やストレスが容易に想像できます。視覚刺激に弱い悠平に合わせて、勉強机を壁とレターケースで仕切り構造化した例は以前にも紹介しましたが(「冬休みの家庭療育」を参照ください)、発達障害者の場合、自分から刺激を遮ることが困難です。支援者は、こうした根本原因を考慮しながら支援の仕方を考えていかなければならいと思います。次回は<二覚編>として、前庭覚と固有受容覚の二覚についてを見ていきたいと思います。