ブックレビュー〜テンプル・グランディン&リチャード・パネク『自閉症の脳を読み解く』

妻(yuheimama)です。先日、コロラド州立大学教授(動物学博士)で自閉症当事者のテンプル・グランディンさんの新しい著書『自閉症の脳を読み解く』を読了しました。(グランディンさんについては 「発達障害啓発週間によせて〜ブックレビュー(2)発達障害当事者による体験談など」 「お知らせ:ドラマ『テンプル・グランディン〜自閉症とともに』放送」 を参照ください)。最近読んだ自閉症関連の本の中ではかなり読み応えがある、刺激に満ちた本でした。そこで今回は、読後の感想と、特に悠平の場合に照らし合わせて参考になったポイントを幾つか書き留めていきたいと思います。

自閉症の脳を読み解く どのように考え、感じているのか

自閉症の脳を読み解く どのように考え、感じているのか

同書は2部構成で、第1部は「「行動」から「原因」へ」と題して、自閉症の原因究明に関する最新の研究動向を紹介しています。現状、すべての自閉症者にあてはまる原因の特定はできていませんが、脳画像研究や遺伝学によるアプローチ、環境因子による影響などが紹介されています。中でも脳画像診断については、著者自らが診断を受け、自身の不安感の強さや、聞き取りが弱い半面、視覚に強いといった特性を、脳画像によって確認していきます。その過程は科学者であり自閉症当事者である著者だからこそできる「体験ルポ」のようです。

悠平が大学病院で広汎性発達障害の診断を受ける前に、MRIや脳波をとりました。当時はなぜMRIを撮影する必要があるのか分からず、担当医師に「なぜMRIを撮影するのですか」と聞き、医師からは「脳に器質的な異常がないかを調べるためです」との説明を受けました。それはその通りだったのでしょうが、著者の体験から、悠平の場合もMRIの結果から不安感の強さなどの障害特性が裏付けられるのでは…と、思えてきて、興味深く読みました。

また第1部では、感覚処理問題についても書かれています。自閉症の特性は社会性やコミュニケーションなどの面から語られることが多く、著者は当事者にとっては感覚過敏が非常に辛く苦しい問題であるにもかかわらず、自閉症研究者にはその重大性が十分に認識されていないという見方をしています。そもそも自閉症は、当事者がどのように感じているのかではなく、外からどのようにみえるかという視点から診断されているので、当事者の中で何が起き、どのような行動に表れているのかを考えるためにも「脳について考え直す時が来ていると信じてやまない」(p137)と指摘して、第1部を締めくくっています。

第2部は「「弱点」から「強み」へ」と題し、これまでの自閉症への対応が、障害特性による弱点・問題点に目を奪われるあまり、自閉症ならでは「強み」が見過ごされてきたのではないかという問題意識の上に展開されています。強みの見つけ方としては、著者のこれまでの知見から、まず自閉症の思考法を3つあると仮定し、それぞれのタイプに合った教育の在り方や就労の可能性を考えています。思考法は「画像で考えるタイプ」「パターンで考えるタイプ」「言語・事実で考えるタイプ」の3つで、著者自身は「画像で考えるタイプ」だと言います。悠平は「映画のセリフを最初から最後まで暗唱したり、野球の記録をすらすらと際限なく並べ立てたり(以下、略)」(p249)といった特徴から「言語・事実で考えるタイプ」であるようです(もっとも悠平の場合は映画のセリフではなく絵本のセリフであったり、野球の記録ではなく電車の路線や駅名だったりするのですが)。このタイプには文章を書かせることが強みを伸ばすことにつながるようなので、今後の療育の参考にしようと思いました。就労に関しては、思考タイプ別に向いている職業を挙げていますが、知的障害があると難しいと思われる専門職が多く、主に高機能自閉症アスペルガー症候群の方の参考になると思いました。

グランディンさんにの著作はこれまでにも何冊か読みましたが、今作は脳科学や遺伝学についての解説もあり、冒頭に書いた通り読みごたえがあるというか、かなり歯ごたえのある本でした。読むのにもブックレビューを書くのにもいつも以上に時間が書かかりましたが、「そうだったのか」「そうかもしれない」と考えさせられる点も多く、勉強になりました。私にとって読みやすい本ではありませんでしたが、読む価値はある本だったと思いました。