今年の3冊

 妻(yuheimama)です。12月になると、新聞などで「今年の3冊」といった特集記事を目にします。これは新聞社の書評委員や作家、著名人が、その年の新刊から印象に残った本を3冊選んで紹介する企画です。これにあやかって、今回は私が選んだ「今年の3冊」を紹介したいと思います。3冊のうち1冊は初版が昨年なので、正確にいうと「今年出会った3冊」ということになるでしょうか。

 まず1冊目は永井洋子・太田昌孝編『太田ステージによる自閉症療育の宝石箱』(日本文化化学社)です。「太田ステージ」とは、自閉症児の「発達段階をとらえやすくするために、いくつかの発達の節目をとらえてステージ分けしたもの」(p24)です。Stage1(一般の子どもの1歳半くらいまでの発達水準)、2(1歳半から2歳ぐらい)、3―1(2歳半前後)、3―2(3歳から4歳ぐらい)、4(5歳から7歳ぐらい=約7割が高機能自閉症)に分かれています。著者には、以前のエントリー「発達障害啓発週間によせて〜ブックレビュー(3)療育・生活支援」で紹介した『認知発達治療の実践マニュアル―自閉症のStage別発達課題』(日本文化科学社)という、かなり重厚な著作があるのですが、今回の本はそのエッセンスを生活レベルで具体的に表し、日常の療育実践に重点を置いたものです。

太田ステージによる自閉症療育の宝石箱

太田ステージによる自閉症療育の宝石箱

 悠平が特別支援学校に体験入学した際に、学習内容がかなり初歩的に感じられ、学校側から「学力重視なら地域の支援学級に」と言われ、気持ちが揺れ動いたときに本書を読みました。学習以外の領域である、対人関係やコミュニケーション力、状況認識のレベルが、悠平の場合どの段階なのかを当てはめて考えることができ、判断材料にすることができました。総ページ数178ページ、本体価格2800円でちょっと割高感があり、当初買うのをためらったのですが、結果的には大変役に立った本です。それぞれの段階に適した日常の声掛けや接し方などの療育実践例も参考になりました。

 2冊目は岩永竜一郎『もっと笑顔が見たいから 発達デコボコな子どものための感覚運動アプローチ』(花風社)です。著者はアスペルガー症候群の息子さんを持つ、作業療法士・医学博士です。自閉症の特性というと、まず「社会性の質的偏り」「コミュニケーションの質的偏り」「想像力の質的偏り」といった3点が挙げられますが、本書は作業療法士ならではの、身体感覚の視点からアプローチしています。

もっと笑顔が見たいから―発達デコボコな子どものための感覚運動アプローチ

もっと笑顔が見たいから―発達デコボコな子どものための感覚運動アプローチ

 例えば「学習と身体機能の関係」では、幼児期の不器用さが学童期の読み・書き・計算の障害につながりやすいという、知らなければ別々の問題ととらえかねない現象の原因を「身体の感覚運動機能」に求めています(どういうつながりがあるのかは一言で説明できないので、関心がありましたら同書をご覧ください)。そこで、学習する力を育てるために根本にある身体の感覚運動機能を育てるアプローチを提案しています。具体的には例えば、大型遊具での遊びです。悠平の通う療育園や就学予定の支援学校には大型遊具が置かれたホールがあり、そのホールや園庭で体を十分動かしてから朝の会が始まります。何も知らなければ「ただ遊んでいるだけ」に見える活動に、実はそのような目的があったことに気付かされました。

 支援というと、まずは対人関係や問題行動への対応を考えがちですが、著者は「感覚面・運動面にも支援を加えていかないと、本当の意味での支援にたどりつかないことも多い」と考えています。医師や心理士とは違ったアプローチが盛りだくさんで、今後も読み返す機会が多々ありそうです。

 3冊目は佐々木正美監修『発達障害の子ものびのび暮らせる生活サポートブック 幼児編』(すばる舎)です。実はこの本、まだ読み終わっていないので取り上げるべきか迷ったのですが、どこで何をするかを分かりやすく空間を仕切る構造化や視覚支援の実例がカラー写真で多数掲載されていて、とにかく分かりやすいのです。本文を読了すればもちろんもっと多くのことが学べると思うのですが、写真を見るだけでも価値があると思い、取り上げました。 

発達障害の子ものびのび暮らせる生活サポートブック 幼児編 (あんしん子育てすこやか保育ライブラリーspecial)

発達障害の子ものびのび暮らせる生活サポートブック 幼児編 (あんしん子育てすこやか保育ライブラリーspecial)

 以上が私の「今年の3冊」です。来年もまた、少しずつ見聞を広げ、悠平とともに歩いていきたいと思います。次回は「今年の3冊―悠平編―」の予定です。