他人を意識する難しさ〜「世界自閉症啓発デー」と「発達障害啓発週間」に寄せて

 ここ1カ月ほどのことでしょうか。悠平が外出の際に、今までにはなかった行動を見せるようになりました。知らない人とすれ違う際に、わたしや妻がつないでいるのとは反対の手を伸ばしたり、時にはぺたっという感じで触わりながら「あっ、すみません」とか「あっ、こんにちは」と話しかけます。親としては慌てて頭を下げて「すみません」と相手に謝るのですが、本人はニコニコと上機嫌です。相手の人によって反応は様々。男性はたいてい、ちょっと驚いたような顔はするものの、そのまま歩き去っていきますが、先日、スーパーの店内で行き交った年配の女性はわざわざ足を止め、「あら、こんにちは」と笑顔で悠平に声を掛けてくれました。
 妻の不調もあって昨年夏から週2回、午前中だけシッターさんに来てもらい、悠平の散歩や遊び相手をお願いしているのですが、妻によると、シッターさんが悠平と散歩中、ぶつかった相手に「あっ、すみません」と謝ったのを横で見て以来、真似するようになったようです。悠平がさかんに真似するのを見て、シッターさんが「すみません」よりは、と「こんにちは」を教えてくれたとのことでした。
 悠平にしてみれば、人にぶつかったら謝る、という社会のルールを理解してのことではないだろうと思います。同じように、あいさつの意味も理解できていないでしょう。偶然、目にして気に入った所作なのだと思います。先日は妻と3人で外出した際、駅の改札口でたまたまわたしの携帯に仕事関係の電話があり、わたしが悠平の手を離したとたんに悠平が駆け出し、前から来る人たちに手を伸ばして「こんにちは」とか「すみません」と話しかけながら駅の中を走り回りました。妻が追いかけて押さえましたが、周囲の人から見れば、何と迷惑な子どもかと、そして親は一体どんなしつけをしているのだろうか、と不快に感じただろうと思います。
 外出中に悠平がパニックを起こした際など、周囲からの冷ややかな視線を感じることにも幾分かは慣れて来ました。失礼があれば親が謝るのは当然ですが、悠平には、この社会では他人を意識することが必要ということを、少しずつでも学んでいってほしいと思います。人に声をかけるのはどういう場合か、それが許されるのはどういう場合か、そのトレーニングも実地に積み重ねるしかないのかもしれません。

 4月2日は国連の「世界自閉症啓発デー」でした。日本では厚生労働省などが4月2日から8日を「発達障害啓発週間」に定めています。悠平が発達障害と診断されなかったら、ことしもわたしは何気なく見過ごしていたことだったと思います。自閉症発達障害の知識と、発達障害児への理解が社会に広がっていってほしいと願っています。
 【参考】世界自閉症啓発デーの公式サイト http://www.worldautismawarenessday.jp/htdocs/

 ※昨日(3日)は入院中のわたしの父の見舞いに悠平を連れて行きました。昨年の夏に体調を崩し、秋以降は療養型の病院で過ごしています。途中で母と合流し一緒に昼食を取りましたが、ふだん見慣れないせいか、自分のおばあちゃんだというのに悠平は泣きっぱなしでした。それでもだんだん慣れてきたのか、病院に着くころには機嫌も直り、病院では隣りの病室にまで入ったり、トイレで呼び出しボタンを押してヘルパーさんを呼びつけてしまったりと、にぎやかでした。

 帰り道、ふと思い立って乗り換え駅の「押上」で駅の外に出てみました。新東京タワー東京スカイツリー」の建設地です。先日、333メートルの東京タワーを追い抜いたことが報道されました。地下の駅から地上に上がってすぐ、見上げるような建設中のタワーがそびえたっていました。しかし、悠平はまったく興味がわかなかったようです。結婚前の一時期、この近くに住んでいたこともあり、周囲を少し歩いてみたかったのですが、悠平はすぐにわたしの手を引っ張って、ぐんぐんと駅のエレベーターまで歩いて行きました。電車が大好きな悠平としては、早く次の電車に乗りたかったのかもしれません。